海の向こうで
「海華がいなくなるってことに合わせて聞いてほしいことがあるんだけど」
と海。それを聞いた途端みんな静かになる。
やっぱり総長ってすごいな。
こんなにも、慕ってもらえるなんて。
「俺はもう3年ほど総長を続けるつもりだ。俺なんかがまた3年もやるのは嫌だと思う人がいれば申し訳ない。俺ももう受験勉強とかで長らく喧嘩をしていないから鈍ってきてるかもしれないし」
「そんな、海さんは俺らの憧れですよ!」
「また海さんと一緒に喧嘩したいです!」
と下っ端くん達からの声が上がる。
「ありがとう。俺が喧嘩のうちにくたばってもいけないから、先に次期総長を決めておこうと思う。
…蓮」
「え⁉︎」
蓮と呼ばれた彼が、自分のことを指差して目を白黒させている。
「お前は幹部でも、特攻隊でもなんでもないかもしれない。けど、十分な実力を身につけていると思う。みんなを指揮するのがうまいし、何より慕ってもらえるような存在だ」
「あ…ありがとうございます!」
彼はよほど嬉しかったのか、うるうると涙を流している。
…かわいい。
ちょっとハーフっぽい見た目だから、話してたら癒されそう。
えー、話しかけてみればよかったかも。
なんて、私がコミュ障なの完全に忘れてたわ。
なんて蓮くんを見ていると、いきなり視界が真っ暗になった。
「おい、俺以外の男に見とれてんじゃねーよ」
と飛鳥が言う。
背中に温もりを感じるところから見ると、どうやら飛鳥が手で私の目を覆ったらしい。
その声が不貞腐れているのが分かって、思わずぷっと吹き出してしまった。
私は飛鳥の手をそっと私の目から離した。
「私には飛鳥だけじゃん。それを分かってもらえれば別にいいじゃん」
「こら、総長の話の途中にイチャイチャしださない」
と嵐くん。
え、嵐くんに見られてた…?
あ、そっかここ普通にみんないるもんね。
「は、はーい…」
私は気まずげに言って嵐くんからちょっと目を背けた。
でもそのあと飛鳥と目を合わせて、ふたりで揃ってくすっと笑った。