海の向こうで
一足はやく帰れることになったので、私は去年ぶりにここ…故郷へ帰ってきた。
「久しぶりだな…」
ぽつりとそんなことを口にする。
私は小さめのスーツケースをコロコロと転がして、とある場所に向かっていた。
実は今日帰ることは親には言っていない。
ついでに言うと飛鳥にも言っていない。
知ってるのは…鮎斗くんだけ。
私は、鮎斗くんとふたりで買い物をする予定だった。
もちろんデートとかじゃなくて、飛鳥の誕プレを買いに。
飛鳥に久し振りに会うから、誕プレもいつもよりちょっと豪華にしたいな、なんて。
「うみちゃん!」
鮎斗くんが待ち合わせ場所から手を振って、こちらに走ってくる。
鮎斗くんは真面目そうな黒髪から淡いクリーム色に髪を染めていたから一瞬気づかなかったけど、声ですぐに彼だと分かった。
「ごめん、待たせたよね」
と言っても私は今待ち合わせの10分前に着いたんだけどね。
って考えると、鮎斗くんはいつ着いたんだろ。
「ううん。ちょっとやりたいことがあったから、先に来ただけだよ」
と鮎斗くんが私に紙袋を見せてきた。
「そっか…!」
私はその紙袋にちらりと目をやった。
やけに可愛らしい袋だな。
好きな子にでもあげるのかな。
…そうだと、いいけどな。
「あ、荷物持とっか?」
鮎斗くんの目が、私が持っているスーツケースにいった。
「ううん。大丈夫」
ここには大したものは入ってないし、それに私自身これをコロコロと転がすのが好きだったりする。
小さい頃もよくお母さんに
「持たせてー!!」
って頼んでたっけ。その頃の自分を思い出して、くすっと笑みがこぼれる。
「…そっか。じゃあ、行こ」
ちょっと不満げな鮎斗くんだったが、
「うん」
私は気づかないフリをした。