海の向こうで




おじさんが代わってくれた。



「あすか…っ生きてよ…っ」



もう、声すらまともに出なかった。



急に全身が冷たく感じて、特に手の先は感覚がなかった。でもぎゅっと噛んでいた唇から血が流れたことで私ははっとした。慌てて唇から出た血を舌でなめる。



おじさんと他の人が交代交代で胸骨圧迫をしているのを、私は黙って見ているしかできなかった。



やがて救急車がやってきて、彼はその中に乗せられていった。



私もおじさんたちにお礼を言うと、付き添いとして救急車に乗り込んだ。



最初に救急隊員に



「この方の身分証明書を持っていますか」



と聞かれたが、多分彼はもう大人だろうし持っているだろうと思って、彼の持っていた…そして車にぶつかられた際に彼の手から離れた鞄の中をまさぐったら、やっぱりあった。なので私はそれを救急隊員の方に手渡した。



また、



「なにかこの方に持病などはありましたか」




と聞かれたが、特にないはずなので、私はただ首を横に振った。



他にも色々聞かれたがあまり答えられず、私は飛鳥についてなにも知らないんだなと気づいた。



救急隊員の方達が飛鳥にテキパキ手当をしているのを黙ったまま見つめて、そして永遠と時間がかかったような気持ちがしたがようやく病院へとついた。



飛鳥がさっと運び出され、私も救急車から降りた。



「あの、ありがとうございました」



と救急隊員の方に告げる。ちょっと驚いたようすを見せたが、



「はい」



と、救急隊員の方は笑いもせず、かといって怒りもせずにきっぱりと返事を返してくれた。




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