海の向こうで




私は少しずつ、海に近づいていった。



正直言って、私は全く泳げない。



クロールも微妙なくらいだ。



だけど、かえって好都合なのかもしれない。



だって、これですぐに終わるから。



首吊り自殺や交通事故に遭ったように見せかける手もある。



けど、首吊り自殺は死んだ後宙ぶらりんになっている自分を想像するだけでも嫌だし、交通事故は私を跳ねた人にものすごい迷惑をかけてしまう。場合によっては逮捕されて何も悪くないその人の人生を狂わせてしまうかもしれない。



ここで死ぬなら、いいんじゃないか。



いつだったか、飛鳥とここにきたことがあったよね。



初めて来た時に告白されて。



そして、その1日後くらいかな。初めてキスをした。



その時から、私達はたまにここに通うようになっていた。



ここならばあまり人もこないし、ほぼ貸切状態だから。



始まった場所で、なにもかも終わりにしたい。



私はそう思って、海の中に足を入れていく。



海水は驚くほど冷たく、まるで自分が氷になってしまいそうだった。



私はそれに躊躇せずにそのままゆっくり進んでいく。



けどいきなり足がもつれて、私は思いっきり海にダイブする。



一瞬で私の着ていたコートや洋服に水が染み込んで、私をちくちくと刺す。いや、ちくちくなんて言葉じゃ足りない。



もうそこは足がつかないところだった。



息が、できない。



泳げないのに加え海水が冷たすぎる。



「はあ…っぐ…っ」



海水がまるで待ち構えていたと言わんばかりに私の喉へと押し寄せる。



けど、…なんで私、上にいこうとしてるの?



なんで死のうとしてるのに、死ににいかないの?



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