海の向こうで
「うみちゃん。俺は飛鳥さんのことだって、うみちゃんのことだって大事に思ってる。海さんにも助けてもらったけど、飛鳥さんだって俺のことをずっと見てくれてた。だから、本当は俺も泣きたいよ。戻ってきてほしいよ。まだお礼も言えてないのに。…っ」
鮎斗くんの言葉がそこで止まった。
同じだ。
しばらくして鼻をかむと、彼はまた喋り始めた。
「飛鳥さんのためにも、…飛鳥さんのぶんも、生きよう。桜龍のみんなで」
「…っ」
「死ぬか死なないかなんて、人の自由だと思ってた。ここで言うのもあれだけど、自殺したけりゃ自殺しろ、なんて思ったこともあった。けど、今はそうは思わない。生きてほしいよ。こんなにも、誰かが亡くなるって辛いものなんだね。そう考えたら、俺は死ねないと思った。せっかく両親とも仲良くできていたのに今死んだら、両親を悲しませてしまう。それに、桜龍のみんなだって悲しんでしまうかもしれない。
それは、海華ちゃんも同じだよ。海華ちゃんがもし死んでしまったら…俺はそんなの考えられない。大事な人をほぼ同時期にふたりもなくす人ができてしまうってことだよ。もしそうなったら俺は立ち直れない。特に海さんはどう思うか…。
なんだろう、うまく言えないけど、生きるってすごくつらいことなんだって思うよ。けど、俺はうみちゃんに生きていてほしい」
鮎斗くん…。
「…ん、」
「話したいならゆっくりでいいよ…」
「本当は、分かってた」
私はそれを遮った。
「わかってたんだよ…っ」
涙が止まらなかった。
「わあああああああ」
私は意味不明な言葉を叫んだ。
力がなかったはずなのに、こんなにも声を出せるんだと思った。
その言葉は、私以外の人が聞いたら意味はないのかもしれない。
ただの煩い音に過ぎない。
けど、それには私が言いたいことすべてが詰め込まれていた。
飛鳥があのとき…私と2人で海に行った時に叫んだ「わー」の本当の意味を理解できたような気がした。