海の向こうで
「…、もう決めた。私、生きたい。この意思を変えたくない」
私は叫んだ後、こう鮎斗くんに告げた。
「…俺、嬉しいよ。その選択をしてくれて、…っほんとに、うれしい…」
へなへなと椅子に座り込む彼。
「…うん。ありがと…」
「うん」
と言うと、彼はそうだ、と言ってとあるものを取り出した。
「そうだ、これ。飛鳥さんがここに忘れていったのかなって思ったんだけど」
と、鮎斗くんがとある小包を差し出す。
お礼を言ってから開けてみると…そこから、前に貰ったブレスレットがしゅるっと落ちた。
高校受験の時に、飛鳥からもらってお守りとして受験会場にも持っていったっけ。
そういえば、家にこのブレスレットがないことに今更ながら気がついた。
「お と し も の」
同封されていた小さな紙に、飛鳥の字でその5つの文字が書かれていた。
「…あすかぁ…」
それを見て、また涙が溢れてきた。
もう死ぬほど泣いたと思っていたのに、まだ涙は出てくるようだ。
これを落としていたなんて、知らなかった。
ごめんなさい。
そして、ありがとう…。
***
それから少し経ち、私はもとの生活に戻った。
汚かった部屋も綺麗にして、もとのアパートに戻り、そして大学に通い始めた。
「海華ちゃん…だよね?インスタ繋がらない?」
「ごめんなさい、そういうのはお断りしてるんで」
くだらないナンパなどはさっと交わすくらいならできるようになった。
「海華って最近カッコいいよね」
と柚花が言った。前は木花さんって呼んでたけど、大学でも一緒だし名前呼びにしよう!となり、それぞれそう呼ぶようになった。
「まあ確かにかわいいよりかっこいいの方が言われるの割と好きかな。柚花みたいなかわいい女の子は私が守ってあげたいなって感じ」
「えええ、私がかわいいとかあり得ないよ〜」
と柚花。いやいやいや、柚花めっちゃ可愛いからね⁉︎無自覚中の無自覚だよ⁉︎
柚花は守ってあげたいような感じの子。ちょっと色っぽいのはあるかもしれないけど、それよりもかわいい、妹みたいと感じる。
「…海華が、また大学に来てくれてよかった」
柚花がぽつりと呟いた。
「私もよかった」
それに頷く。
もう二度と立ち直れないと思ってた。
キミがいなくなって、何度も死にたいって思った。
だって、キミのいない世界だなんて想像できなかったから。
そこまで、私はキミに支えられてきたんだね。
キミなしじゃ、いられないくらい。
自殺しよう。
そう考えたことだって少なくない。
実際に命を投げ出そうとまでしてしまった。
けど、その時にみんなが救ってくれた。みんなが手を、差し伸べてくれた。
だからこそ、この命を大切にしたい。
まだ、決して心の傷が癒えたわけじゃない。まだ、私の心は血を流し続けている。
けど、私がへたれこんでいてなにもせずにただ死ぬのを待つだけのことをしても、飛鳥が亡くなったという事実は変わらない。変えられない。
だからこそ、私はまた立ち直れたんだ。