海の向こうで
子供だって小さいながらに悩みを抱えているんだよ。
「…そうね、一回その暴走族の子と会わせてもらえないかしら。そこで実際に見て決めることにするわ。その時はあなたもお願いね」
と父さんにも声をかける母さん。
「…ああ。でも、鮎斗にはどちらについて行くか決めてもらわないとな」
と父さん。
「そうね。もう離婚するのは決まっていることだから」
「何だよそれ…っ」
俺は叫びそうになった。けど、慌てて心を鎮める。こんなとこで叫んで自分の思いを押し付けるのはよくない。
「なんで…そうなっちゃったんだよ」
俺はぽつりと呟いた。
「…喧嘩を毎日するんだったら、もういっそのこと離婚した方がいいって思ったの。そうしたら、私も、そして父さんも苦しまなくていいから」
離婚の、典型的なパターンだ。
聞いた時はそう思った。
結局は、相手っていうよりかは自分を守るために離婚するんでしょ。
そりゃあ、さ。
父さんと母さんは好きで喧嘩してるわけじゃないって分かってるよ。
逆に好き好んで喧嘩する人の方がおかしいと思う。
けど、けどさ。
「結婚という道を選ぶほど、ふたりは愛し合ってたんだろ?
だったら最後まで一緒にいろよ。
最後まで、相手のために尽くし尽くされろよ。
そこまでの覚悟がないなら、結婚なんてしないだろ」
と俺の口から思わずこぼれでた、本音。
「だから、もう一度よく考えてくれないかな。今はただ単に俺の気持ちを押し付けたに過ぎないから、またふたりで考えて欲しい」
と言うと、父さんと母さんは目を合わせて、それからくすりと笑った。
「そんなこと言われちゃ、こっちが馬鹿みたいね」
と笑いながら言う母さん。
「そうだな。もう一度、よく話し合ってみるよ。今度こそ、違う答えが出せるといいな」