だから、言えない
「あ、はい!すぐ行きます」
私は片林さんに一礼して、
すぐに事務所の中へ戻った。
村薗先輩はというと、
そのまま外へ出ていってしまった。
片林さんに何か用でもあったかな?
部屋に戻って席に座ると、
佐山さんが目に入った。
佐山さんは普段通りなのに、
なぜかいつもより、
悲しそうな顔に見えたのは、
佐山さんの過去を
知ってしまったからだろうか。
「なんだよ?」
私の視線を感じたのか、
佐山さんが顔をあげた。
「あ、いえ」
「さっさと、電話出ろよ」
私は慌てて受話器をとると、
保留を解除した。