だから、言えない


「あ、はい!すぐ行きます」

私は片林さんに一礼して、
すぐに事務所の中へ戻った。

村薗先輩はというと、
そのまま外へ出ていってしまった。

片林さんに何か用でもあったかな?


部屋に戻って席に座ると、
佐山さんが目に入った。

佐山さんは普段通りなのに、
なぜかいつもより、
悲しそうな顔に見えたのは、
佐山さんの過去を
知ってしまったからだろうか。

「なんだよ?」

私の視線を感じたのか、
佐山さんが顔をあげた。

「あ、いえ」
「さっさと、電話出ろよ」

私は慌てて受話器をとると、
保留を解除した。




< 127 / 286 >

この作品をシェア

pagetop