だから、言えない


私は塚尾さんを見つめた。

塚尾さん…

佐山さんは、あの忘年会で、
塚尾さんは、村薗先輩と二人になるために
仕組んだって言った。

確かに言われてみればそんな気もするけど、
証拠もないから、
私はいまのところ、
塚尾さんを問い詰めたりはしてない。

でも、もし、聞いたら、
塚尾さんはなんて答えるんだろう?



考え事をしていたら、
佐山さんが私を呼んでるのにも
気付かなかった。

「おーい。竹本ってば」

目の前に佐山さんの大きな手が、
ひらひらと現れて、
私は我に返った。

「大丈夫か?」

佐山さんは少しかがんで、
心配そうに私の顔を除きこむ。

「すみません!
何でしょうか?」

私はモップをバケツに突っ込んだ。

「俺、今日朝ごはん作ったぜ」

そう自慢気に言った佐山さんの顔は、
とても嬉しそうでキラキラ輝いて見えた。

「お、おー!
それはいいことですね」
「あぁ!」

佐山さんが目を細めて笑ったから、
私はドキッとした。

だって、佐山さんの笑顔って
レアだから……

「えぇー?佐山さんが朝ごはん?
一体何作ったんですか?」

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