だから、言えない
「あー、怖い怖い。
ね、村薗さん」
塚尾さんが、
後ろにいた村薗先輩の方へ振り返った。
「あはは…」
先輩は困ったように塚尾さんを見ている。
「でも、あの包丁も握ったこと
なかった佐山さんが、
朝ごはんを作るまでに進歩したなんて!
私は感動です!」
だって、あのクリスマスの日、
佐山さんは野菜を切ることさえ
できなかったんだよね。
「いや、卵とソーセージ焼くのに、
包丁関係なくないですか?」
「うっせー、塚尾!
ソーセージに切れ込みいれたんだよっ!」
「そんなくらいで、
どや顔しないでくださーい」
塚尾さんが言った。
正直に嬉しかった。
ずっと、コンビニのものしか
食べてこなかった佐山さんに、
料理するきっかけを与えられたこと。
きっと、佐山さんは、
家で料理する親を見ていないから、
どうやって料理するのか、
家庭料理がどんな感じなのか
知らなかっただけなのかも。
佐山さん…