だから、言えない


竹本はふぅとゆっくり息を吐いた。

「別に隠してることじゃないので、
話しますよ。
実家には会いたくない人がいるんです…」

そして、暑くなってきたのか、
帽子と手袋を脱いだ。

「親か?」

俺も唯一の家族に会いたくねぇからな…。
いや、家族なんて思ってねぇけど。

「あ、いえ、弟なんです」
「お前、弟いたの?
兄弟いねぇとか言ってなかった?」
「もう、私の心からは抹消した人なので、
いないということにしてるんですよ」

竹本は窓の外に目をやった。

さっきからずっと
同じような田舎の景色。

「あいつは大学に入って
一人暮らしを初めてから、
パチンコ、酒、たばこ三昧で、
毎月親を騙しては
お金を振り込ませてました」

竹本が俺の顔をちらっと見た。

< 196 / 286 >

この作品をシェア

pagetop