だから、言えない
竹本はふぅとゆっくり息を吐いた。
「別に隠してることじゃないので、
話しますよ。
実家には会いたくない人がいるんです…」
そして、暑くなってきたのか、
帽子と手袋を脱いだ。
「親か?」
俺も唯一の家族に会いたくねぇからな…。
いや、家族なんて思ってねぇけど。
「あ、いえ、弟なんです」
「お前、弟いたの?
兄弟いねぇとか言ってなかった?」
「もう、私の心からは抹消した人なので、
いないということにしてるんですよ」
竹本は窓の外に目をやった。
さっきからずっと
同じような田舎の景色。
「あいつは大学に入って
一人暮らしを初めてから、
パチンコ、酒、たばこ三昧で、
毎月親を騙しては
お金を振り込ませてました」
竹本が俺の顔をちらっと見た。