だから、言えない
お姉ちゃん、
こんなときにあたしを見失って…
最悪だ。後で文句いってやる。
っていうか、もう帰ろう。
まだ来て少しか経ってないけど。
もうやだ。場違いだ。
立ち上がろうと地面についていた
両手に力をいれた時、
真上から優しい声がした。
「大丈夫?立てる?」
顔をあげると、
まぶしい王子様が私に手を伸ばしていた。
そう、それが村薗さんだった。
さらさらの黒髪に、
透き通るような目。
きれいな顔立ち。
「はい…」
村薗さんの手に引かれ、
あたしは立ち上がった。
「怪我してない?」
「大丈夫…」
村薗さんは、
転がったままだったあたしのパンプスを拾うと、
足の前にそっと置いてくれた。