だから、言えない
「髪、伸びたね」
「…あ、はい……」
村薗先輩、
いつと比べて
伸びたって言ってるんだろう?
社会人になってからは
ずっとこの長さだけど…?
先輩が私の髪を触るのも、
またドキドキして、
私は思わずおかきを離してしまった。
カサッといっておかきが
こたつの上に着地する。
それを見た村薗先輩は、
掴んでいた私の髪を
手の上で滑らせながら離すと、
落ちたおかきを拾って、
私の前にそっと置いてくれた。
「懐かしいな…
ことちゃんと二人きりでいるのって」
村薗先輩は伏し目がちに話していて、
その顔には
昼間見ない先輩の表情があった。