不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 もちろん、パーティーの場に緊張していて、それが顔に出ているのも否定できない。

 でも、それ以上に緊張しているのは千晶さんに対してだ。

 もっと堂々としていないと、きっと婚約者になんて見えない。

 エレベーターはすぐに三階へと到着する。

 三階のフロアはすでに正装に身を包んだ多くの人が訪れていて、千晶さんを待っていた秘書の方がすぐに近づいてきた。


 すごい……こんな大々的なパーティーだなんて……。


 用意された大広間前には多くの祝い花が飾られ、会場内では名刺を手に挨拶を交わす人や談笑している人たちが見える。
 その向こうには立食形式の飲食の準備も進められていた。


「つぐみ、行こうか」

「あっ、はい」


 帯が巻かれた腰に手を添え、千晶さんは私を会場内へと連れていく。

 また別の緊張が次第に増さり始めて、静かに深く息を吸い込んでいた。

 しっかりと着付けてもらった成人式ぶりの着物のせいなのかもしれないけれど、どうも呼吸がしづらい。

 心の中で『落ち着け、大丈夫』と自分に言い聞かせ、少しでも緊張と不安を和らげようと試みる。

 そうこうしているうち、「桜坂社長!」と声をかけられ、会場に入ってすぐ千晶さんの足が立ち止まった。

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