不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 その後、千晶さんは代表として前に立ち、多くの招待客と挨拶を交わし、忙しそうにしていた。

 こうしてビジネスシーンで千晶さんをちゃんと見ることは考えてみれば初めてで、彼の社長としての会話術や立ち振る舞いに見惚れてしまう。

 彼の持つカリスマ性が多くの人の中でより際立っていた。


「疲れたんじゃないか?」


 会場内が歓談ムードと包まれると、千晶さんは私の体調を気遣ってくれる。

 通りがかったドリンクサービスのスタッフを捕まえ、飲み物をもらってくれた。


「ありがとうございます」


 気を張っていて、しばらく水分も取っていなかった。

 冷たい烏龍茶が喉を潤していく。


「話せていなかったが、このあとこのまま京都に向かう」

「今晩、ですか?」

「ああ。またしばらく忙しいが、東京に戻る時には連絡を入れる」

「そうですか……わかりました」

「寂しいと、少しは思ってくれるか?」

「えっ」


 予期せぬ言葉が返ってきて、驚いて千晶さんを見上げる。

 千晶さんはそんな私をフッと笑い、「なんてな」と話を終わらせた。

 また家を空けると聞かされて、正直寂しいという感情が湧き起こった。

 でも、それを素直に口に出すことはできない。


 もしも、〝寂しい〟と言えたなら、千晶さんはどんな顔をするのだろう……?


「千晶」

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