不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
多くの話し声がする会場で、不意に聞こえてきた女性の声。
振り返る千晶さんにつられるようにして振り向くと、艶やかな紺色の着物が目に飛び込む。
それを見事に着こなしていたのは、色白で顔立ちの美しい黒髪の女性。
年齢は私よりは確実に上の、大人の魅力が溢れる第一印象だ。
涼し気な瞳に、すっと通った鼻筋。
控えめなレッドのルージュをひいた薄い唇の口角の下には、色っぽく見えるほくろがある。
着物には慣れた様子で、きっと普段から和服に馴染みがあるように窺える。
そんな完璧な大人の女性を目の前にして、まるで成人式のような自分が恥ずかしい。
まさに〝馬子にも衣裳〟であることに、その場からいなくなりたい気持ちに駆られた。
「やっと捕まったわ。なかなか話せないんだもの」
女性は千晶さんの元にやってくると、親しそうに彼を見上げる。
となりにいる私のことはまるで見えていないような様子で、変な緊張と不安が胸に広がっていった。