不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 千晶さんのことは、謎に思うことがたびたびあった。

 今となっては、それが桜庭さんがいるからだと繋がっていく。

 いつか聞けるときがきたら聞こうと思っていた『可哀想に』の言葉の意味。

 結局聞けないままになってしまったけれど、なんとなくその意味がわかった気がする。

 昨日の仕事後、マンションから自分の持ち込んだ荷物を運び出した。

 桜庭さんが職場にやってきたあの火曜日、帰宅してすぐに荷造りを始めた。

 生活必需品は千晶さんが大抵のもの用意してくれていたから、持ち出すものは自分で持って出られる程度の量にまとまった。


「じゃ、またねー。つぐみ、またいきなり誘うー」


 夕方六時から集まり、解散したのは九時過ぎ。

 外は相変わらず雨降りで、そのせいか少し肌寒く感じた。


「頭痛……大丈夫か?」


 今日も凛香と篤志と別れ、修哉と帰り道を歩く。

 傘の向こうからそんな声が聞こえて顔を上げると、修哉がちらりとこちらに視線を寄越した。

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