不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 結婚の話はなかったことにしてほしい。

 単刀直入にそう手紙に書いてきた。

 どういうことなのか説明する必要なんてないし、それは千晶さんが自分で一番わかっていること。

 会って何を話せばいいのか、歩みを進めながら整理していく。

 もう来ることもないと思っていたマンションに到着すると、急に緊張で胸が圧迫され始めた。

 部屋前にたどり着き、深く息を吸い込む。

 深呼吸をして気持ちを落ち着け、玄関の向こうに足を踏み入れた。

 ぽつりと一足揃えてある千晶さんの黒い革靴。


「…………」


 今までのように「ただいま」というのは違う気がして、無言で玄関を上がる。

 そろりと覗いたリビングには、ソファに前かがみで掛け、両手を組んだ千晶さんの姿があった。

 その前のローテーブルには私の残した置手紙が置いてある。


「つぐみ……」


 私の姿に気付いた千晶さんが腰を上げる。

 ソファのそばまで歩み寄ったものの、千晶さんの顔を真っ直ぐ見れない。


「すみません……お待たせして」

「いや、構わない。それより、これはどういうことなんだ」


 テーブルから手紙を掴み取り、千晶さんが私へと近づいてくる。

 やっと顔を上げて千晶さんの顔を見ると、千晶さんは息が詰まりそうなほど真っ直ぐに私の顔を見つめていた。

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