不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


「好きに見てもらって構わない。必要なものがあれば教えてもらえば用意する」


 桜坂社長は奥に広がるガラス窓から煌めく摩天楼を見下ろしていた。

 淡々と事務的に告げる抑揚のない声。

 ほとんど事情もわからないまま連れて来られ、そんなこと言われたって「はい、わかりました」なんて私だって言えない。


「あの、ちょっと待ってください。私、いまいち状況が掴めてなくて……婚姻、とか、この部屋のことも、これは一体――」

「安心しろ。特段、何か難しく考えることはない」


 意を決して声を上げたものの、それは桜坂社長の声に遮られる。


「ここで生活をすると、ただそれだけのことだ」

「え……?」

「お前と暮らすのは本意ではないけど、とある理由から仕方なくそばにいてやらなくてはならない事情があってな」


 告げられた衝撃的言葉の数々に、いよいよ思考回路は停止寸前。

 すらりと高い後ろ姿を凝視したまま、自分を落ち着かせるように瞬きばかりが繰り返される。

 とある理由から、仕方なく……?


「まぁ、本意でないのはお互い様だろうから、とにかくあまり深く考える必要はない。ただここで、一緒に暮らす同居人くらいに俺のことは思えばいいだけだ」


 話が無茶苦茶すぎて、もう質問の項目すら浮かばない。

 振り返った桜坂社長は、とんでもない話をしているにも関わらず表情は相変わらず涼し気で、これといって特別さっきから変わった様子はまるで見受けられない。

 変化のない端整な顔をじっと見つめる私を、わずかに口角を引き上げ見つめ返した。

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