不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
「そのままの……意味です」
「そのままの意味って、婚約を破棄したいと言うのか。どうして突然そんなこと――」
「突然じゃないんです……伝えそびれてしまっていて……」
「伝えそびれてた……?」
「はい……」
結局言おうと頭の中で考えたことは口を開けば吹っ飛んでいて、無意識に言葉がどんどん出てきてしまう。
「私……好きな人ができたんです。だから、結婚はしたくないし、できません」
自分の発した言葉で、ズキズキと胸が痛めつけられる。
あぁ……顔を見るとやっぱりダメ。
本当の気持ちを隠すために、千晶さんの顔から目を逸らす。
「千晶さんも、そのほうが都合がいいでしょうし、結婚の話は、なかったことに――」
話しながら鼻の奥がツンと痛くなり、顔を俯ける。
「……事務的なことは、また、追って連絡を、させていただきます」
涙なんか見せてはいけない。
ぺこっと頭を下げ、そのままくるりと背を向ける。
今更、孫たちに許婚なんか決めた祖父母たちを恨んだ。
こんな約束、誰も幸せになんてしてくれなかった。
千晶さんだって、もちろん、私だって……。
「さようなら」
逃げるようにして玄関に向かいかけた、その時――。
「待つんだ」
千晶さんの手が引き留めるように私の二の腕を掴んだ。