不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 驚いたように跳ね上がった鼓動と、広いリビングを包み込む緊迫した空気。

 引き留められた腕を振り払うこともできず、ただその場に固まる。


「なぜ泣いている」


 涙は見せないように、泣くのを我慢したつもりだった。

 でも、慌てて触れた頬はすでに濡れているし、肩も震えてしまっている。


「これ、は……」

「好きな男ができた……俺から逃れたいと言うのなら、どうして泣く必要がある」


 もっともなことを言う千晶さんに返す言葉が見つからない。

 この涙は、本当は離れたくないという証。

 好きだという気持ちを抑えて、消さなくてはいけないという悲しさの現れ。

 でも、そんなこと口が裂けたって……。


「答えられないなら、お前を解放してやるわけにはいかない」


 そう言った千晶さんは突然、私を背後から抱き上げ、リビングを連れ出していく。


「あっ、あのっ」


 驚いて出した声も届かない様子で、あっという間に寝室へと連れて行かれてしまった。

 千晶さんはどこか乱暴に私をベッドへと放ると、スーツのジャケットを脱ぎ、ベッドの端に投げ置く。

 そして私の目を真っ直ぐ見つめたまま、ベッドの上で動けない私へと近づいた。

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