不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
それから約、一時間後――。
「どっ、どういうこと!?」
実家のリビングに、私のひっくり返りそうな声が響き渡った。
あの後、淡々と一方的にこれからのことを話した桜坂社長は、私を再び車に乗せ実家までの道を走った。
そして「また連絡する」と、今日初めて会って一緒にいたと思えないほど当たり前みたいに、違和感なく私の前を後にしていった。
まるで嵐のように現れ、去っていった桜坂社長。
魂が抜けたように実家の玄関扉を入って、母親に「遅かったじゃない」と出迎えられてやっと意識が戻ったような感じだった。
夕飯を作るとメッセージを入れたことすらすっかり忘れていて、一気に押し寄せた現実味のない事態に「ごめん」しか出てこなかったくらいだ。
そんな様子の私に、母親は「何かあったの?」と心配そうに声をかけてきた。
そこでやっと少し頭が働きはじめ、桜坂社長に言われた言葉が脳裏に蘇った。
『ところで、お父様の具合はどうだ。安定しているとは聞いているが』
唐突に父親のことを訊かれたことだ。
向こうは父親が入院し、心臓が悪いということまで知っているような様子だった。
そうなると、母親に訊けば何か桜坂社長のことを知っているのかもしれないと思えたからだ。
仕事を終えて帰ろうとしたところ、勤める会社の社長に初めて声を掛けられたこと。
そして訳も分からないまま連れ出され、これから一緒に暮らすという高級タワーマンションに連れていかれたこと。
婚姻――だなんて、そんな驚くべき単語まで飛び出してきたこと……。
そのすべてを話した。