不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


「そうだったの……千晶さん、つぐみのところに来てくださったのね」


 私からの話を聞き、母親から出てきたのは再び私を混乱させるセリフだった。

 その口調は、この何もかもよくわからない事情をひとり把握しているような調子。

 桜坂社長のことを、下の名前で千晶さんと、母親は口にしたのだ。

 一体どういうことなのか。

 向こうも父親のことを知っているようだったということも含めて問い詰めると、母親から信じられない言葉が飛び出したのだった。


「あなたたちはね、お祖父様たちが決めた許婚なのよ」


 そんな言葉、生きてきて身近に聞いたことのある言葉ではなかった。

 この時代に、今どきドラマや漫画でだって聞かない。

 そもそも、それがなんだか私自身よくわからないまであった。

 それから、母親は私の知らない話を淡々と語っていった。

 桜坂社長の祖父母と、我が家の祖父母の古くからの友人関係。

 その上で生まれた互いの子どもたちの親交と、私たち孫の将来の約束。

 許婚の話はここ数年で決まったことなんかではなく、もう古く私が幼少期の頃から決まっていたことだと話された。

< 14 / 135 >

この作品をシェア

pagetop