不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
午後六時――。
朝十時出社した社員は午後六時に終業を迎える。
その二時間後の正午出社をする社員は、コールセンター受付終了時間の午後二十時までが業務時間となり、早番遅番の時差出勤でコールセンター業務は構成されている。
業務を終えてスマートフォンを見ると、トークアプリに母親からメッセージが入っていた。
仕事は少し残業になったけど、父親のところにお見舞いに寄って帰るから少し遅くなるという。
仕事を終えた時間が遅いようなら何か買って帰ると言っているけど、何か簡単に作れなかったかと冷蔵庫の中身を思い出す。
たしか、豚肉のバラと白菜が余ってたから、ミルフィーユ鍋なら簡単にできそうかな……?
エレベーターに乗りながら母親へ【簡単に作るから大丈夫】と返信をしたところで、一階へと到着した。
エレベーターを降り、手にかけていたトレンチコートを羽織る。
スマホの画面に視線を落としながらビルのエントランスへホールを歩いていくと、正面に人の影を感じて足を止めた。
「あっ、すみません」
前方不注意で衝突しそうになり、スマホをコートのポケットに押し込みながら頭を下げる。
すると、相手の足も止まり不意に顔を上げた。
私より背の高い、スーツの男性。
仰ぎ見て一瞬、視線が固定されてしまったようだった。