不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
黒服のスタッフがプレートを運んできて、目の前に美しく畳まれたナプキンを慌てて手に取る。
広げて膝にかけていると、静かに前菜料理が置いていかれた。
こんな、プレートにアートしたみたいな食事をする人が、私の作るこじんまりとした料理を口にしてくれるのか……。
今更だけど、料理教室みたいなところに通って、要望に応えられる知識と技術を身に付けに行ったほうが安心かもしれない。
「食べないのか?」
「……。あっ、はい、いただきます!」
正面からじっと見られて、慌ててフォークとナイフを手に取る。
「いただきます……」
私が食べる体勢に入ると、桜坂社長もまたプレートの上に視線を落とした。
「俺は飲めないが……何か飲むか? 飲めるなら美味しいワインを用意させる」
「ワイン、ですか……」
運転があるから桜坂社長は飲めないわけだけど、私だけ飲むっていうのも……。
「好きじゃないか」
「え、いえ、そういうわけではないのですが、私ひとりだけいただくのはと思って……」
「気にしなくていい。少し飲んだほうがリラックスできるんじゃないか?」
そう言った桜坂社長は唇に微かに笑みを浮かべる。
え……もしかして、私が緊張してるの気遣ってくれてる……?
たしかに、少しお酒を入れたほうが肩の力も抜けるかもしれないなんて思えてくる。