不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
「では……少しだけ、いただきます」
せっかくの提案に乗ることにすると、桜坂社長はすぐに黒服のスタッフを呼びつける。
「彼女に、あのワインを」
と、それだけで話は通じるらしく「かしこまりました」とスタッフは去っていった。
立ち去る黒服のスタッフを目で追うついでに、店内の様子をちらりと盗み見る。
席に着く客はどのテーブルもこの場所に相応しい雰囲気の人々ばかりで、自分が妙に浮いている気がしてならない。
ワインをいただいたところで、このガチガチの緊張はほぐれるのだろうかとも思う。
オーダーから間もなくスタッフが訪れ、グラスにワインが注がれる。
桜坂社長が飲まないのに私だけいただくのはやっぱり違う緊張が増したけど、素直に「いただきます」とグラスを手に取った。
口元に近づけただけで芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。
フルーティーな甘さにつられて口をつけると、濃厚な、それでいて爽やかな、これまで飲んだことのないワインの味に驚いた。
「美味しい……!」
「そうか、口に合ったのならよかった」
「すごく美味しいです。ワインなんて、いいものとかわからないで何でも美味しいって思ってましたけど、全然違います」
思った感想を一気に口にすると、桜坂社長はまた薄っすらと口元に笑みを浮かべる。
どこか満足そうな表情を見せると、再びナイフを動かした。