不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
この方……。
頭にまず浮かんだ言葉は、『本物……?』だった。
私がこの目の前に立つ人物を見たのは、テレビの画面の中で数回ほど。
自分の働く会社の商品がテレビ番組で特集される時は、自分も関係者として興味深く、可能なかぎり視聴している。
その中で会社のトップとして画面上に現れる、『みかど堂』代表取締役社長――桜坂千晶。
美しく上品で繊細な和菓子を受け継ぐに相応しい八代目だと、業界はおろか世間では高く評価されている。
それは彼の経歴はもちろん、人を惹きつけるその完璧な容姿からも言われるのだろうと誰もが思うところだ。
私にとっては自分の会社の上層部の人間という感覚より、どちらかと言えば著名人みたいなところに分類される人。
今だって、本物を目の前にしていることが信じられない。
速まり始めた鼓動の中で、ぽうっと美しい顔立ちに見惚れる。
「迎えにきた」
「へ……?」
「行くぞ」
一体誰に言っているのだろう?
そんなことを思って自分の背後を振り返ってしまう。
しかし、私の向こうには誰も人の姿はなく、明らかに私に言っているとしか思えない状況に途端におろおろし始めてしまった。