不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
前菜、スープ、魚料理とコースは進み、私はワインもちょこちょこといただきながら静かな食事は進んでいく。
これといった話題を見つけることもできず、かといって何か話題を振られることもなく、もくもくと食事に専念する。
何か話したほうがいいかなと、向こうに見えるライトアップされた東京タワーを眺めながら考えていると、桜坂社長のほうが先に口を開いた。
「夜景を見るのが好きなのか」
「えっ、あ、はい。すごい眺めだなって、来たときからずっと。こんな景色を前に食事するの、初めてなので」
「初めて?」
「はい、初めてです」
私の返答が意外だったのか、桜坂社長は一瞬不思議そうな表情を見せた。
私と身分の違う、生きてきた道の違う桜坂社長にとってみれば、こういう場での食事も日常の一コマなのかもしれない。
だから、一般家庭で育った私との人生経験の違いには今後も驚いてしまうのは仕方がないことだろう。
「なので、あの住まいになるマンションからの景色も、私にとったら絶景で、あんな場所が住まいになるなんて夢みたいです」
そう言って「うち、普通の戸建てなので」と付け足し「えへへ」と笑ってみせた。
「お前が望むなら、いくらでも見たい景色を見せてやる」
「……?」
「手に入れたいものも、すべて与える」
真っ直ぐ真剣な眼差しを私へと向けて、桜坂社長は突然そんな宣言をする。
改まった話題なような気をして思わず背筋が伸びると、桜坂社長はそんな私の様子を察したのかふっと表情を緩めた。