不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
「俺なんかのことが知りたいなら、なんでも教えよう」
「え……本当ですか?」
「そんな風に言われるとは思いもしなかったからな。まさか、不公平なんて言葉が出てくるとは」
そう言った桜坂社長に不機嫌な様子はなく、むしろどこか穏やかで優しい表情にすら見えてくる。
「それなら、ぜひお願いします。桜坂社長のこと、知りたいです」
「じゃあまず、その呼び方を変えてもらおうか」
「呼び方、ですか?」
「じきにお前も〝桜坂〟になるのに、おかしいだろ?」
考えてもみなかったけど、たしかにその通り。
私にとっては〝桜坂社長〟であって、その呼び方になんの違和感も感じていなかった。
でも、じきに結婚する相手を苗字と役職で呼んでいるのはおかしなことだ。
「えっと、では……千晶さん、でいいですか?」
「そうだな、それでしっくりくる」
初めて下の名前で呼んでみると、それだけでトクントクンと胸が高鳴ってくる。
「わかりました」と答えながら、鼓動を落ち着けようとワインの残るグラスを手に取った。