不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 ゆっくりと浮上すように戻ってきた意識の中で、膝から下がゆらゆらと揺れている感覚を覚える。

 薄っすらと見えてきた視界の中には、綺麗な紫色のネクタイがぼんやりと鮮やかに映し出された。

 そしてその瞬間、今自分がとんでもない状態であることに気付く。

 ここで突然目を覚まして何か言う勇気もなく、起きてしまったことを果てしなく後悔した。


 なんで、どうして運ばれてるの!?


 食事を終えて車に戻って、帰りの車内の記憶もある。だけど、途中で途切れてる……。

 ていうことは、私また車で寝こけちゃったの!?

 ワインをすすめてもらっていただき、リラックスして話せるちょうどいいほろ酔い程度にはなっていたかもしれない。

 相手が相手だけに、それなりに気をつけて酔い潰れることのないようにしたはずなのに、昨晩の睡眠不足が祟ったのだろう。

 寝不足の日にお酒を摂ると、これまでの経験勝てない睡魔に襲われる傾向が私にはある。

 ある時は電車で爆睡して駅員さんに起こされたこともあったし、またある時は飲みの席では座ったままこっくりこっくりとひとり睡魔と戦っていたこともあったくらいだ。

 気を張っていたつもりだったけど、あの抜群な乗り心地の高級車に揺られていれば、それは今晩の私にとっては最高の揺りかご。

 いつの間にか爆睡し、そしてここはたぶん住まいのマンションに違いない。

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