不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 目を開けてキョロキョロと確認するわけにもいかないけど、ほのかに香るルームフレグランスが帰宅したと証明している。

 どうしようかと思っているうちに、背中がふわりと着地する。

 背と膝裏を支えていた腕が離れていき、内心ホッとひと安心していた。

 運んでもらって大変申し訳ないものの、やっぱりこのタイミングで目を覚ませない私は、寝ているフリを続行させる。

 千晶さんが部屋を出ていってから少しして、謝罪を考えてから顔を合わせようと思う。それが一番いい。

 そう決めて目をつむっていると、履いているパンプスが片足ずつ脱がされていく。

 必死に寝姿が不自然にならないように努めている最中、額の上にそっと温かな指が触れた。

 乱れているであろう前髪を整えるように梳く指先が、次第にさらさらと額を撫で、頭へと触れる。

 小さな子どもをよしよしとするような優しい手つきで撫でられ、胸にざわざわと戸惑いが広がる。

 同時に鼓動が早鐘を打ち始めて、実は起きているのがバレてしまわないかひやひやした。

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