不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


「何をしてる。行くぞ」

「え、あ、あの、私に言ってらっしゃいますか?」


 慌ててそう訊くと、桜坂社長は訝しげに目を細めた。


「他に誰がいる」

「え……」


 確かにその通りなのだけど、私が連れ出されようとしているのは意味がわからない。

 しかし、そんなことを思っているうちに桜坂社長は私の腕をおもむろに掴む。

 そして引っ張るようにして自分のとなりに並ばせると、背を押し出入り口の自動ドアに向かって歩き始めてしまった。


「あのっ、すみません、何かの間違いでは――」

「北川つぐみ。違うか?」

「えっ……」


 名前をはっきりと口にされ、返す言葉が頭の中から吹っ飛んでいく。

 そうこうしているうちにビルの外へ連れ出され、あっという間にビル向かいの道路に停車されている車まで連れていかれてしまった。

 待っていたのは、黒塗りの高級外車。


「乗って」


 助手席のドアを開けると、戸惑う私の様子などお構いなしに中に押し込められる。


「あのっ!」


 咄嗟に上げたその声はバタンとドアが閉められる音に掻き消され、すぐにとなりの運転席のドアが開かれた。

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