不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 ドラム式洗濯の前に座り込み、泡まみれになった衣類がぐるぐると回るのをぼんやりと見つめながら、「ふう」と小さなため息がこぼれる。


 行ってらっしゃいの、キス……。


 千晶さんが出かけたあと、案の定私は全く使い物にならなくなった。

 おかげさまで、午前中は家のことをしていると宣言したにもかかわらず、やっと洗濯機を回し始めたところ。

 もう十一時が過ぎたというのに、何もできていない。

 かれこれ三時間近くぼんやりとしてしまっていた。

 でも、そんな風に自分がなってしまうのも仕方ないと思えるくらい衝撃的なことが起こったのだ。


『行ってらっしゃいのキスなんて、普通のことだろ』


 千晶さんの声で鮮明に耳の奥に蘇る、さらりと出てきた驚きの言葉。

 あの時、何も言うことができなかった。

 だって、あのタイミングで唇を奪われるなんてこと、考えるはずもない。

 それ以前に、千晶さんが私にそんな……キスなんてすると思うわけもなく……。

 一体、どういうつもりであんなことをしたのだろう。

 さっきからそればかり考えている。

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