不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 許婚とはいえ、これから夫婦になるから?

 あの時の千晶さんの様子からすると、きっと深い意味も感情もないのだと思う。

 だから、私だって必要以上に考えすぎたり、意識したらいけないのかもしれない。

 とはいえ……初めてだったのだ。

 さっきのが私の、ファーストキス……。

 この歳になるまで大事にとっておいたつもりもないけど、初めてはずいぶん呆気なく奪われてしまった。

 それも、相手はあの千晶さん……。

 千晶さんにとったら、あんな挨拶みたいなキス、なんてことないのかもしれない。

 私より一回りも年上で、あの容姿とハイスペックなら間違いなく女性との交際経験も豊富なはず。


「ハァ……」


 自然と出てきてしまったため息に、ぶんぶんと横に頭を振った。

 もう、やめやめ。

 こんな風にいくら考えても、余計に悶々とするだけ。


 だけど、初めてのキスは、もう少し思い出に残る形でしたかったな……。


「掃除機、かけちゃお……」


 洗濯機の前に座り込んでいた重い腰をやっと持ち上げ、ランドリールームをあとにした。

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