不本意ながら、極上社長に娶られることになりました
「そんなことは気にしなくていい」
そう言った千晶さんは横になった私にかかるシーツを整え、「おやすみ」と静かに言った。
どうしたらいいのかと困惑しながら、とりあえず目を閉じる。
黒くなった視界に気持ちを落ち着けようとしているうち、前髪のかかる額の上を千晶さんの手が撫で始めた。
冷静でいなくてはならないと頭でわかっていても、それを無視して鼓動が音を立て始める。
こういう行動もすべて、千晶さんにとっては人前で夫婦らしく見られるための行為でしかない。
たとえこうして触れられても、そこに愛おしいなんて気持ちは含まれていなくて……。
高鳴り始めた鼓動の中、目を閉じたまま意を決して口を開いた。
「わかってたはずなのに、私……いつの間にか錯覚してました」
しんと静寂に包まれる寝室で、微かに震える私の声が小さく沈黙を破る。
前髪を撫でていた手がぴたりと止まり、すっと離れていった。