自由に羽ばたくキミが
「社会に出て働いてる歳に研修生なんて呼ばれてちゃ食っていけないイメージだがな」


「俺達だって食わしてかなきゃいけないからそりゃ見合った報酬は出すよ」


CM、ドラマ、映画はメインや主役級でもなければ知れてるし、雑誌はノーギャラ、その代わり顔は確実に売れる。


交通費と、時給程度でいくらかの仕事も多いらしい。


「レッスンし放題で住む所も激安、飯もマネが連れてってくれるし」


グループ所属出来ればやっていけるんだって。


「他の養成所はレッスン代かかるし、研修生なんてギャラどころか仕事だってねーから」


「うちから人材が流れないのはそのおかげ」


「そういや咲名、しばらく日本って聞いたけど住むとこは?」


「今はとりあえず照にぃのとこ」


「…馬鹿、言いやがって」


え、じゃあ口止めしといてよ!と慌てて付け足す咲名、今日はね?と強調する。


「は?じゃあ俺のとこでいいじゃん身内だし、実家は…嫌だろうけど。今日俺も照にぃのとこ泊まろうかな」


「朝現場どう向かうんだよ、バスでねーし送れねーよ」


「じゃあ咲名、やっぱ俺の部屋来い」


「アイドルの卵が女連れ込むんじゃねー」


「可愛い妹だっつってんの」


「すみません生中三つ」


張本人の咲名、呑気にオーダー。
飲ませて酔わせて帰らせる作戦に出る。


「もーやっと帰ってきたのに照にぃばっか!はームカつく!昔からそう!」


「ほらな、こいつ最近荒れ気味だって言ったろ」


まだジョッキに半分も残ってるビールを、一気に飲み干す。


「ヤンキーは嫌い、イライラするなら地元にシフトチェンジするよ」


「ばっか!イライラなんてしてねーよ、照にぃ咲名の事頼んだぜ!んで週三はこうして飲みに来よう!」


必殺奥義の地元に帰る、を今日早速使うとは思わなかった。


あとこんなに効くとは思わなかった。


「地元にいる咲名は咲名らしくないし、なんか悲しそうだからな、ばぁちゃんには会いたいだろうけど」


日帰りで行けよなんて。


なんて事ない一言なのに、咲名の心に刺さる。
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