自由に羽ばたくキミが
「とりあえず住むとこ決まったら合鍵は渡せよ」


「分かった、来る前は言ってね、誰も居ないはずの部屋に人の気配があるのは怖いしビビるから」


ダメとは言わない、なんなら来ればいいと思ってる咲名、理由はしっかりある。


一人は平気で好きで慣れてるから平気で出歩くし海も渡るけど、寂しいのとか暗いところは嫌いで一人に《される》のも嫌い。


長年一緒に過した翼や照樹には何となくその差は分かってるけど。
空気で感じとってくれる人は滅多にいないから、彼氏だとか友達には埋めきれないもの。


来る時は言え、の言葉をはいはいって意外とすんなり納得したのは、距離を取る為ではなくて保つ為だと分かってるから。


そこからはいいペースでお酒が進んで。
イギリスで何をしてたか、翼はどうだったかとか。


近況報告し合って楽しんで。


「翼がアイドル目指したの意外だった」


「咲名がよく言ってただろ、十代そこそこでやりたい事なんて見つかる方がすごいって。
気が変わったらどうするんだって、大学行けって言われた時に」


実際咲名は見つかってない、これというものが本人の中では確立されてない。


「専攻なんて決めれない、なんでみんな決めれんの、とか言ってな」


「子供の頃からの夢がある子は羨ましかったよ」


「でもアイドルって何でもやれるんだよ、歌もダンスも演技も…一気にやれるから、いつかこれって物が見つかったらいいなと思って」


「今のところは?」


「残念ながら全部楽しいんだな、これが」


バラエティ番組のひな壇も楽しかったし、研修生の特番でやったMCも楽しかった、って。


「私達昔から歌って踊るのは好きだったもんね」


「しかも上手かったもんな」


「血、繋がってないし顔も似てないのに」


「見た目もハイスペックで」


欲がないから飾らないだけで。
見てくれがいいのは自覚してたというか。


こうしてさせられてた咲名。


自分をもっと良く見せたいという欲がないだけで、いいなと思った物を身に付けることはするから。


今日みたいにダサく見られることだって本当なら不本意なのに、欲がないから耐えられたこと。
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