自由に羽ばたくキミが
資本金の有り難さを分かっていながら、ビッグビジネスに乗る気になれない。


乗る気になれないのはモチベーションが上がらないから、なんて。


「よく分からん…そのー、資本金だって、ビジネスには欠かせないのに」


「自己満足で足踏みするって言いながら、自分はその足踏みすらする気がないって事か?」


「挑戦したいのに、成功前提だからつまんねーんだろ」


父親、照樹、翼の言葉に一つずつ頷く咲名。


「そ、結局はつまんないの。
身内の前だから許されると思ってすっげー上から目線で、一度だけ言わせて。


私を誰だと思ってんの、遺伝子レベルで成功なんてするに決まってる、そんな決まってる話を持ってこられたってそそられねーよってこと」


あはは!と、男三人揃って、そんな男前な発言に笑ってしまう。


遺伝子的にいえば母親に激似な咲名、そこを誇らしげに言う姿がなんだか嬉しい。


「だから地元のバンドは一から始めたから楽しかったし、その分それに見合った努力をしたのにそれを受け入れてもらえなくて、冷めたし」


ん?という顔をした翼と父親はスルー。


「そんなに要らないって思ったギャラも、楽しんだ自分と喜んでくれた人、大好きな曲を自分の手で世間に出せた事、その充実感で言われた通りの額を貰った」


2曲だけのオンステージでこんなに!?ってめちゃビビった、お金に困った事ないのにビビったと。


いくらあった、そんなに貰ってどうした?って聞く翼に。


「向こうではそういう話はタブーだから」


歳や給料は聞かないマナーなの、と誤魔化される。


金持ちの家庭で育った咲名がビビる程の額を、なんの躊躇いもなく…全額とはさすがに思ってないけど差し出したのかと驚くのは、使い道を知っていた照樹。


実際受け取られずだから使ってはないみたいだったし、手元に残ってるのも知ってるから動揺せずにいられたけど。


それだけ本気でバンドやってたんだなって、仲間外れにされたと簡単に言った咲名を想って少し切なくもなった。
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