自由に羽ばたくキミが
「つまんないんだよねェ、ビッグビジネスになればなるほど。スーツ着て名刺持って誇らしげにそんな話するより、革ジャン着て楽器持って音出そうぜ!って言われた方が、まだ聞く耳持てるよ」


「じゃあ聞く耳持てよ、バンドだってそれこそその手の話はくるだろ?」


「一つ盲点だった」


なんだよ、と三人に聞かれる咲名、いやぁ…と濁すのは、三人の気持ちを知ってるから。


「私、親父や照にぃの考えてる事分かってるよ、ガッカリしない?」


どこまでの事を言ってるのかは分からないけど、魂胆がバレてるという事実にドキッとしてしまう。


表に出なくてもいいから、なんでもいいから帰って来いよって言ったのに、バレてるなんて。


「別にやらなくてもいいって言ってはいるけど、もう一度歌えって、思ってるでしょ?」


そのままだった、見事に。


「スタートする為に立った舞台がゴールに感じるって、分かる?」


分かる、経験は無いけど。
言いたい事は分かるからこそ、苦しい。


「あんな経験二度と出来ないなんて思ってないよ、むしろ思えた方がモチベーションにもなるけど」


だろ?って事はもう、言いたい事は決まってる。


もう言わなくてもいい、聞きたくないのは父親、とりあえずタバコに火をつけて誤魔化す。


「本当に楽しかった、大満足しちゃったよもう、パパのあの歌を、ママに私が聞かせてあげれたんだ。パパの想いを届ける事が出来た。
親父はムカつくかもしれないけど、ね?でも私親父にも親孝行出来たって、思ってる。


あれでパパは吹っ切れたって笑ってたし、親父は私のあんな姿に惚れ惚れしたでしょ?」


そう、そうなんだ、したんだよ。


咲名がステージに立って、万人に受け入れられて。
まるで往年の大スターのような、自分の愛娘のそんな姿を夢見たどっちの父親にとっても。


いきなり叶った姿を見せられた気がしていた。


「そのせいで気が抜けてぽっくり行ったかもしれない、全然衰えてもなくて、病気なんて見た目じゃ分からないし実感もなくて」
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