自由に羽ばたくキミが
病気だと知ったのはあのステージに立って少ししてから、しばらくはイギリスで過ごすと父親と暮らしていた時。


定期的に病院に通う父親に問い詰めて初めて聞かされた事で。
難病で治療法は薬で進行を遅らせる事しか出来ないと。


脳の検査をして初めて分かったこと、少しだけど、身体の動きが鈍くなって調べた結果だった。


進行すれば筋肉が衰え、寝たきりになって。
食べ物飲み物を飲み込む力も無くなって、その病気の最期は痩せ細ってしまうけれど。


｢一緒にお酒飲んでタバコ吸って、ギター弾いてくれるから私はピアノ弾いて歌って。
病気が進行して音楽が出来なくなる前に辞めたい、それで私と楽しい最期をって言ってたけど。


誰が思う？病気が進行する前にぽっくり逝くなんて。
薬が合ってたからか一緒に過ごしてた間はほとんど進行してなかったのに。健康体で亡くなったよ彼は｣


聞かされなければ、問い詰めなければ病気だったと知ることもなかったと思うくらい、少し恰幅のいい姿はほとんど変わらなくて。


最期を迎える覚悟も準備も何も出来ないうちに、眠るように亡くなったなんて。


｢音楽辞めちゃうなんて、なんで病院行ってんだろ、ただ事じゃないなって問い詰めたのに、最期は楽しく過ごしたかったってそんな事言われたらさぁ。私に張り合ってお酒飲んだり遊びに連れ出してくれたり、仲間に引き合わせて自分が亡くなったあとに私にも仲間をって…｣


薬とお酒、一緒に飲まないでと何度も言ったしそのせいで副作用で、止めれば良かったと自分を責めた咲名だけど。


副作用でも無ければ発作みたいなことでもなくて。


穏やかに眠るように息を引き取った父を最期に診たドクターさえ驚くほどで。


お前は正しかった、彼は幸せなまま旅立てたと、悲しみに暮れながら励ましてくれたのは、父親が残してくれた仲間だった。


｢止めれば長生きしたかもって何度も思ったけど、今はさ。
幸せに旅立てたのかなって、遺してくれた物を見てても思えたし親孝行出来たなって｣
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