自由に羽ばたくキミが
地元で頑張っていたバンドが無くなった後という事もあって、渡英すると言い出した咲名を誰も止められなかったし。
いつ帰ってくるかも分からなかった、けれど渡って半年後に聞かされた訃報。


葬儀を済ませ、しばらく滞在した後に一度帰国したけれど。


その後すぐにまたイギリスに渡ったから、照樹や翼は会えずにいて。


日本の両親に会って、地元で少し過ごした後に直ぐにイギリスに帰ってしまった咲名。


母親と婚姻関係になかったから、手続きも相続もスムーズにはいかなくて。
物や財産だけではなく、咲名の為に手掛けたものが溢れたあの家を、父親の兄妹や親戚が相続した後も咲名の為に自由にさせてくれてた。


イギリスに来てくれて、最期を一緒に過ごしてくれてありがとうと。


父親が咲名の為に作った曲が、沢山溢れたあの家で過ごした咲名。


そんな曲に触れて過ごした咲名が日本に帰ってきたって、気持ちを掻き立てるモノが見つかる気はしなかった。


「ママは訃報を聞いても一歩も動かなかった、関係ないと言われればそれまでだし、私がパパに会うことを許してくれてただけでも感謝してる。
けど、離れ離れになってたのだってママの都合のせいと思うと、最期くらいは…とも思っちゃって」


パパはずっとママと私を愛してくれてたし、そんな私達を愛してくれる親父と翼には感謝してたなんて言われれば、誰も何も言えない。


訳あって一緒になれなかった二人だけど、その後父親と結婚出来たのは、母親の仕事や立場が関係してると祖母から聞かされてる。


日本で父親と出会って、奪われた…とかでは無いから円満に過ごせた家族だけど、最期のそんな母親にはどうしても不満を抱かずにはいられなかった。


「なんか重い話になっちゃったけど、そんなとこ。
今はね、あの時を超えるものに出会える気がしないよ」


「まぁ…それだけが全てじゃないし俺はこうして、大人になったお前と酒が飲めてるだけで幸せだ、向こうの親父さんと一緒だなァ」


分かりやすいわ、それって。
それでいいって言ってくれるなら、これも親孝行って思えるよって。
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