自由に羽ばたくキミが
照樹の家に着いて、今にも寝そうだった咲名が寝る前にシャワーまで済ませたのは驚いたけど。
髪を乾かす余裕までは残ってなくて。


お世話になります、と改めて三つ指ついて挨拶したあとすぐに眠りに着いた。


照樹だって眠い、寝慣れない布団でも即落ちる。


朝何とか起きた時、咲名は物音一つ立てず眠っていたのを確認して家を出たけれど。


迎えに行く予定時刻の2時間前に起きたよ、おはようとメッセージが届いていたのを見てひと安心。


ご丁寧に洗濯機とキッチン借ります、と報告までされていたので、調理するほど食材は無いはずだけどと思いながら許可はいらないから好きに使えって。


そんな律儀な咲名を信用して、特に言いつける事もなく業務に集中していた照樹。


迎えに行けばクソダサいスーツに身を包み、コーヒーを飲みながらテレビを付けもせず音楽を聴いていた咲名。


無機質だけど、オーディオだけは立派な照樹の部屋での留守番は咲名には全く苦痛ではなかった。


「ねー、私の部屋、ギターくらいなら弾いても平気?」


「アンプ繋いでギュインギュインしなきゃ大丈夫だろ、つーか…ギター?」


弾けたっけ?という疑問は聞かずとも伝わったのか。


「誰の娘だと思ってんの」


の一言で解決された。


あのギタリストと毎日音を出してたならそりゃ弾けるかって。


クスッと笑い合って終わり。


「飯食ってねーだろ、現場に行く途中に買うか済ますか…」


「済ませたよ、ドンキでインスタントの味噌汁買ったしイギリスから持ってきたコレ」


焼き菓子っぽいけど。


うん、菓子だろそれ。


そう言いかけたけど、昨日はクレープを食事と言い張ってたし。


夜はあれだけ飲んで食べてたから、今食欲がないのは仕方ないかと自分も朝食抜きのわりに空かないお腹を思えば納得。


浴室乾燥機を付けて洗濯物が干されてたのを横目に、タバコ一本吸ったら出るぞと。


今日も最低限のメイクと、一つ縛りの髪。
もう少しで身だしなみ整えろよ、と整えたあとの人間に言ってしまうところだった。
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