春の闇に連れ去らレ

間に合わなかった。
何が、とは思わない。

躊躇なく入ってくる足音は昨日聞いたのと同じ。リビングにシュウという男が現れた。

「今日の用事は何だよ」

事情の知らない緤が怠そうに首だけ向ける。あたしは鞄を持ってソファーから立ち上がろうとした。

「返品するんだろう、回収しにきた」

シュウという男は何とも言えない顔をして、そう言った。お前らソファーに並んで何してんだというところだろう。

ぴくりと緤の眉が動いた。

「ああ、そういう。でもそれは昨日の話だろ」

ガッと首に腕がかかった。重力に負けてソファーに戻る。

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