春の闇に連れ去らレ

「あたしはゴキブリですが、子供を玩具にして遊ぶ人間より下等だと思ったことはありません」
「……ほう?」
「緤があたしを大切にしてると思ったら、見当外れで、」

ガッと音がした。
その後に目の上が痛んだ。それを咄嗟に守ろうとした腕も一緒に。

ごろんと近くに徳利が転がる。中から透明な液体が出ていた。
それで殴られたのだと、漸く理解する。

「頭が高えな」

しかもあたしも座っていたのに、軽く飛んだ気がする。痛い。この濡れているのは酒か。

「お前の持論なんてどうでもええ。次から次へと沸いて出る、喋らん代用品はいくらでもあるんじゃ」

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