春の闇に連れ去らレ

あの日、死んでやろうとロープで首を括った、あの時から。

あたしは死んだも同然で、これから何度死のうが同じだ。もう何も怖いことはない。

「え、俺ゴキブリは無理……」
「そんなことは聞いてない」

麻が嫌そうな顔をしたので睨んだ。



どうして、腕が動かない。感覚が肩で途切れている。
どうして、どうして。
仰向けになったまま、目だけを右側へとやった。

あたしの右腕が、ない。
どこに、どうして、なんで。

「腕はついてんだろ」

その声に目が覚める。息がつまっていたのか、肺に冷たい空気が流れこんできた。

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