春の闇に連れ去らレ

そうは言われたものの、引くに決まっている。生まれて初めて、緤の善意を見た。この男も人間の子供だったらしい。

いや、あの子供か。

あたしの右腕にはギプスが巻いてある。気分ひとつで人間を殺していそうだ。

「まだ買うのかよ」
「レジに行きます」

冷凍野菜を買って、エコバッグに物を詰める。
緤が荷物を持ってくれたので、あたしはその後ろを歩いた。

スーパーを出ると蒸し暑い。同じことを思ったのか、緤も暫し立ち止まり、歩き出す。

大通りのアスファルトに照り返す光を受けると、さらに足取りは重くなった。ふと、ショーウィンドウ写った自分を見る。

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