前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
僕の日々は穏やかに過ぎて行った。“おねえさま”はエレーヌに見せつけるとき以外は僕に興味がないし、エレーヌには夜になれば会いに行ける。

しかし、そんな日々は突然終わりを告げた。


「エル。私、結婚するのよ。」

“けっこん”って何だろう。エレーヌは僕をぎゅっと抱きしめた。


「連れて行けないの。行けないのよ。エル・・・」


泣いてるの?


泣かないで。悲しまないで。


目から流れる水を舐めてあげたいけど、エレーヌが放してくれない。しょうがないから僕はそのまま大人しくエレーヌに抱きしめられていた。


しばらくして、エレーヌが家からいなくなった。


なるほど、エレーヌは巣立ったんだな。会えなくなるのは寂しいけど、巣立ちは悪いことじゃない。


それに、それまでずっと“おねえさま”の部屋に閉じ込められていた僕だったけど、エレーヌがいなくなってからは、“おねえさま”の部屋から追い出された。

僕を部屋に閉じ込めておいたのは、単なる嫌がらせだったらしい。本当に嫌な奴だよ。


僕も、“おねえさま”の部屋になんて行きたくなかったから、むしろ喜んだけど、困ったことが起こった。

誰も僕に食べ物をくれない。

もともとこの家は“おねえさま”の味方ばかりで、“おねえさま”が興味を失った僕は放置された。


エレーヌもいないし、食事にもありつけない家にいる意味はない。僕は家を出ることにした。
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