前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
ある暖かな春の日。僕はいつものようにエレーヌの膝の上にいた。エレーヌの撫でてくれる手は気持ちいい。いつもは寝たふりをしてるだけなんだけど、今日はとっても眠い。


「アル?」


エレーヌが僕を呼んでる。

でもさ、エレーヌってあんまり名前つけるセンスないよね。

前が“エル”で今度は“アル”だ。

まぁ、エレーヌが呼んでくれるなら、何でもいいけどね。


「アル?」


エレーヌの声が不安そう。何を心配してるんだろう。


「ねぇ、アル?」

エレーヌが僕を強く揺するけど、僕は眠たくてしかたない。


「アルってば。」

ごめんね。ホントは返事したいんだけど、もう目が開かないんだ。


「アル?ねぇ!アルってば!!」

エレーヌの声が泣きそうになっている。
そっか。お別れなんだね。


「アル!アル!」

そんなに何回も呼ばないで。悲しそうな声で呼ばないで。

もっといつもみたいに呼んでよ。


僕、幸せだよ。だから泣かないで。

アメリアは素敵な人間になったよね。ジョシュアもなかなかいい人間だよ。
だって、ジョシュアといるとき、エレーヌは幸せそうだ。

“おねえさま”がいた家にいるときよりもずっと。そんなエレーヌを見れて僕は幸せだよ。

でもね、贅沢をいうなら僕がエレーヌを幸せにしたかったな。だからね、生まれ変わったら今度は人間になりたいな。


とりあえず、今はもうお別れだ。
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