前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
グレースは嫁いできた当時のことを思い出していた。

婚約破棄されて、好奇の目にさらされ、王都にいることに疲れた彼女は、国王が勧めた縁談を受けて、この辺境の地に嫁いできた。

王都まで馬車で片道10日ほどかかる場所ではあるが、隣国との貿易の拠点にもなっているので、発展もしており活気がある。

半分やけになって受けた縁談だったが、グレースは幸せだった。

顔が怖い夫だが、それを自覚しているため、人と接するときは決して声を荒らげたりしない。脳ミソまで筋肉で出来ていそうな見た目と違い、知性的な人物である。

グレースのことも、とても大切にしてくれた。3人の子宝にも恵まれ、順風満帆な結婚生活だと言える。

一番上の娘は、先日、次期宰相と呼び声の高い若き公爵に嫁いだ。現在の社交界で一番美しい顔をしていると評判の公爵が選んだ相手はどんな人物なのか騒然となった。

当の本人は「期待外れだと思われるだろうなー」と言ってたし、実際そういう嫌味を言う人間もいたらしい。しかし、本人の予想は外れに多くの人に祝福されている。


グレースはそんな人の気持ちがよくわかる。確かに娘のオリビアはその色彩や顔立ちがとりわけ華やかというわけではない。ただ、一緒にいる人を笑顔にしてしまうような、不思議な魅力を持っている。

そして、なぜか昔から権力者に好かれやすい。夫との縁談を後押しした、前国王が退位後遊びに来た時は、その長いひげで覚えたばかりの三つ編みを披露した。

周りの大人たちが卒倒しそうになるなか、前国王はなぜか娘をいたく気に入ったようだ。前国王とはあかさず、『エドワードおじい様』と呼ばせて、とてもかわいがってくれた。

本人は「どこぞの商家に嫁いで平凡な人生を歩む気がする」と言っていたが、グレースはそうはならないだろと思っていた。しかし。公爵に見初めれらえるとはさすがに驚いた。
< 21 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop