前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
そんな娘を夫は溺愛していた。おそらく夫の一番は娘だろう。それは跡取りである息子が産まれても変わらなかったように思う。

あれは忘れもしない娘が4歳の時だった。食後の家族団欒の時間だ。オリビアの定位置は夫の膝の上だった。

そのオリビアが、いきなり夫の眉間をゴシゴシとこすったのだ。夫は驚いて目を丸くした。それを見たオリビアは嬉しそうに笑いながら言ったのだ。

「お父様ははやっぱり眉毛の間の線がない方が素敵よ!王子様みたい!!」

と。


それを聞いた夫はさらに驚いていた。古くから使える執事は、フルフルと震えていた。多分笑うのを我慢していたのだろう。

世界広しといえども、夫を王子様だと思っているのはオリビアだけだ、グレースを除いて。

そう、グレースにとって夫は王子様だった。

同じ年頃の貴族令息には、生意気だの気が強いだの言われるグレースも百戦錬磨の夫の前では、ただのか弱い女性になれた。

自分を宝物のように慈しんでくれる夫に、グレースは恋をしていた。
ただ、結婚してすぐにグレースを妊娠したことで、2人きりの時間はほとんどなく、夫婦を通り越して家族になってしまったのだ。
それでもグレースは夫を愛している。一人の男性として。


娘は嫁ぎ、上の息子は騎士見習いに、下の息子は寄宿学校に通って、3人とも王都にいるのだ。つまり、この家に残されたのは、夫とグレースだけということになる。もちろん使用人はいるのだけれど。

グレースには不満があった。それは娘が巣立ってからの夫の態度だ。
まず、会話がない。娘がいた時は、いつも娘と楽しそうに会話していたくせに、グレースには話しかけてこない。

次に、眉間のしわだ。「王子様事件」以来、夫は眉間のしわを気にするようになっていた。そのため、仕事をしている時以外は、あまり眉間の皺を見なかったのに、最近ではずっと眉間に皺がよっている。


どうせ夫は、娘が一番大事で私のことなどどうでも良いのだわ。


グレースは拗ねていた。
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